第2章 認知症・物忘れ・ボケについての基礎知識
〜認知症・物忘れ・ボケについての正しい知識を深めよう〜
【202】認知症と老化による物忘れは別物!認知症の進行について
認知症と老化による物忘れの違い
認知症の物忘れは「物事全体」を忘れてしまう
物忘れには「認知症」によるものと「老化」によるものがあります。 そして、この2つでは原因や物忘れの重度が異なります。 認知症による物忘れは、脳の神経細胞の破壊によって、物事全体をすべて忘れてしまいます。 例えば、「郵便局まで来たけどなぜここにいるのかわからない」、 「朝食を食べたあとでも朝食を食べたこと自体を忘れてしまう」などが症状として当てはまります。 「最近物忘れがひどいけど、老化のせいかしら?」と思っていると、 認知症だった、なんてこともあり得るので、物忘れの症状が起きたら注意が必要です。
老化の物忘れは「ヒント」があれば思い出せる
認知症の物忘れに対して、老化の物忘れは「ヒント」があれば思い出すことができます。 例えば、「郵便局に来たけど何をしに来たのか忘れた。 でも鞄に入っていた通帳を見つけてお金を下ろしに来たことを思い出す」、 「朝食は食べたけど、何を食べたのか忘れてしまった」など。 老化による物忘れは、進行性がないため、物忘れの症状がひどくなっていくことはありません。 また、日常生活にも支障をきたすほどひどい物忘れをすることもなく、通常通り生活し続けることができます。
その他の違いとは?
認知症と老化による物忘れの症状の違いは説明しましたが、他にも違う点があります。 それは「物忘れの自覚」です。 認知症の場合、物事全体をすっぽり忘れてしまうため、忘れていることすら忘れてしまいます。 そのため物忘れをしているという自覚がありません。対して老化による物忘れは、 「何かを忘れている」というところまで覚えているので物忘れをしている自覚があります。
認知症による物忘れと老化による物忘れの違いを表にまとめています。
認知症 | 老化 | |
原因 | 病気によって脳の神経細胞が破壊される | 脳の老化 |
物忘れの重度 | 物事全体を忘れる | 物事の一部を忘れる |
日常生活への支障 | なし | あり |
物忘れの自覚 | あり | なし |
出典:認知症ネット「認知症とは?原因・症状・対処法から予防まで」より
https://info.ninchisho.net/mci/k10
認知症の進行について
認知症と老化による物忘れの違いの1つに「進行するかどうか」があります。 認知症は進行性があり、早期段階での治療やリハビリを行わないとどんどんと症状が悪化していきます。 認知症の進行過程は4段階です。 1つ目は「MCI」という認知症になる寸前の軽度知能障害の状態。 認知症を発症してしまった後は、「初期」「中期」「後期」の3つの段階に分けられています。 MCIとは物忘れが増えてきたタイミングの状態で、「認知症」という判断がされないことがほとんどです。 日常生活や社会生活に支障がないため、老化による物忘れやボケと勘違いしてしまうこともあります。 なかなか判断しづらいMCIですが、ここで早期発見することで、 認知症を回避することができる最後の大事な時期です。 MCIの回復率は一年で16〜41%で2〜4割の方は回復することができます。 逆にMCIから認知症を発症してしまう確率は一年で5〜12%です。 一年での発症率は1割程度の確率ですが、しっかり予防して回避するようにしましょう。
出典: 浦上克哉「科学的に正しい認知症予防講義」翔泳社2021年出版No.294から改変
日本精神神経学会(監)「認知症疾患診断ガイドライン」2017.CQ 4B-2, 147